疾患について

disease

1.高次脳機能障害におけるリハビリテーション

高次脳機能障害は、記憶障害や注意障害、遂行機能障害など、目に見えにくい症状が多いため、周囲の理解が得られにくいという側面があります。リハビリテーションは、残された能力を最大限に引き出し、生活の質を向上させるために非常に重要です。

1-1. 一般的な高次脳機能障害のリハビリ

高次脳機能障害のリハビリは、大きく分けて「機能訓練」と「生活訓練」の二つに分けられます。

1-1-1. 機能訓練

個々の機能を改善するための訓練です。

記憶訓練
記憶帳やメモを活用する方法、イメージで覚える方法など、その方に合った方法を練習します。
注意訓練
ゲームや簡単な作業を通して、集中力や持続力を高める訓練を行います。
遂行機能訓練
計画を立てて実行する、状況に合わせて行動を切り替えるなど、日常生活に必要な一連の動作をスムーズに行えるよう訓練します。
失語症訓練
言語聴覚士による、話す、聞く、読む、書くといったコミュニケーション能力の改善のための訓練です。

1-1-2. 生活訓練

調理訓練
簡単な料理を通して、材料の準備から片付けまでの一連の動作を練習します。
服薬管理訓練
薬の名前や飲む時間などを覚え、正しく服用できるように訓練します。
金銭管理訓練
買い物練習などを通して、お金の計算や管理方法を練習します。
移動訓練
公共交通機関を利用した外出練習など、安全に移動するための訓練を行います。

これらの訓練は、専門のスタッフ(医師、看護師、作業療法士、言語聴覚士、心理士など)が、個々の症状や困りごとに合わせて計画的に行います。

1-2. 当施設における高次脳機能障害のリハビリ

re-HAVEでは、上記の1-1-2. 生活訓練の欄に記載したような高次脳機能障害によって生じている日常生活でお困りの動作や場面に対して、利用者様一人ひとりの症状や身体状況、生活背景に合わせて、絶対的な時間と質を担保した最適なリハビリプログラムを作成し、提供しています。

1-2-1. 個別機能訓練

専門スタッフによる評価
経験豊富なセラピストが、個別に詳細な評価を行い、得意な機能や苦手な機能を明確化します。
個別訓練プログラムの作成
評価結果に基づき、日常生活で困っていることや、ご本人やご家族が希望する生活目標の達成に向けて、最適な訓練メニューを作成します。また、環境調整を行うことで生活目標を達成するための代替手段を検討し、日常生活の改善や生活の質の向上を目指します。
マンツーマン指導
集中して訓練に取り組める環境を整えています。

1-2-2. 生活に密着した実践的な訓練

模擬生活演習
実際の生活を想定して、より実践的な訓練を実施します。
外出訓練
スーパーマーケットや銀行など、実際の場所に出かけて行う訓練を通して、安全に日常の生活が送れるようサポートいたします。

1-2-3. ご家族へのサポート

ご家族への説明と指導
高次脳機能障害について、症状や接し方のポイントなどをわかりやすく説明します。
ご家族との連携
ご自宅での様子や困りごとを伺いながら、リハビリの進め方などを検討し、家庭生活へのスムーズな移行を支援します。

当施設では、「自分らしく、生き生きとした生活」を送っていただけるよう、専門スタッフがチーム一丸となってサポートいたします。

ご検討中の方へ

re-HAVEでは、日常生活での行動の改善をサポートするプログラムなど、個々のニーズに対応します。脳の機能を活性化し、血流を促進するリハビリは、症状の緩和にとどまらず、引き続き回復へとつながる可能性を広げます。一緒に前向きな一歩を踏み出し、目標に向かって進んでいきましょう。
些細な事でもまずはご相談ください。いつでもお待ちしております。

2.高次脳機能障害とは

高次脳機能障害は、脳の損傷や機能低下によって引き起こされる認知機能や精神機能の障害を指します。

2-1高次脳機能障害の特徴

見えにくい障害
外見からは分かりにくいため、「見えない障害」とも呼ばれます。

日常生活への影響
日常生活や社会生活に支障をきたし、本人だけでなく家族も苦労することがあります。
多様な症状
記憶力、注意力、判断力、感情コントロールの低下、言語障害など、症状は人によって様々です。

2-2高次脳機能障害の影響

高次脳機能障害を持つ人は、以下のような影響を受けることがあります。

記憶力の低下
新しい情報を覚えることが難しくなる、過去の出来事を忘れるなど。

注意力や集中力の低下
長時間集中できない、一度に複数のことに注意を向けるのが難しい。
判断力、問題解決能力の低下
長時間集中できない、一度に複数のことに注意を向けるのが難しい。
感情の制御が困難
怒りや悲しみなどの感情を抑えることができず、衝動的な行動を取ってしまう場合がある。

社会性の低下
他者とのコミュニケーションや関係構築が難しくなることがある。

2-3高次脳機能障害の分類

高次脳機能障害は、影響を受ける機能によって以下のように分類されます。

記憶障害
新しい情報を学習したり、過去の記憶を思い出す能力が低下します。
注意障害
注意を持続させたり、複数の情報を同時に処理する能力が損なわれます。

失語症
言語の理解や表現が困難になる障害です。
失行症
身体の動きを目的に応じてコントロールすることが難しくなります。

失認症
物や人、音、匂いなどの認識が困難になる障害です。

2-4高次脳機能障害の発生頻度

高次脳機能障害は、脳血管疾患(脳梗塞や脳出血など)の後遺症として発生することが多く、特に高齢者においてその発生頻度が高いとされています。また、交通事故や転倒などによる外傷性脳損傷、脳腫瘍や脳炎といった病気でも引き起こされることがあります。

2-5社会への影響

高次脳機能障害は、個人の生活だけでなく、その家族や社会全体にも大きな影響を与えます。適切な診断と治療、そして社会的支援を受けることで、患者が自立した生活を送る可能性が高まります。そのため、高次脳機能障害に対する理解を深めることが重要です。

3.高次脳機能障害の原因

高次脳機能障害は、さまざまな要因が原因で発症します。その多くは脳の構造や機能に直接的または間接的な影響を与えるものです。以下に主な原因を詳しく解説します。

3-1脳血管障害

高次脳機能障害の最も一般的な原因の一つが脳血管障害です。以下のような疾患が該当します。

脳梗塞
血管が詰まり、特定の脳領域への血流が遮断されることで発生します。特に、記憶や言語、注意力を司る領域が損傷を受けると、高次脳機能障害が現れやすくなります。

脳出血
血管が破れて脳内に出血が生じることで脳組織が損傷を受けます。出血の位置によって影響を受ける機能が異なります。

一過性脳虚血発作(TIA)
一時的な脳血流の低下により、軽度の症状が現れることがあります。繰り返し発生すると、高次脳機能障害のリスクが高まります。

3-2外傷性脳損傷

外部からの物理的な衝撃が脳にダメージを与えるケースです

交通事故
衝突や転倒によって頭部に強い衝撃を受けた場合、脳が損傷を受け、高次脳機能障害が発生することがあります。

転倒やスポーツ事故
高齢者の転倒やスポーツ中の頭部打撲も原因になります。

兵役や戦闘時の爆風損傷
爆風による衝撃で脳が損傷し、記憶や感情の制御に問題が生じる場合があります。

3-3神経感染症

感染症が脳や中枢神経系に影響を与えるケースです。

脳炎
ウイルスや細菌による感染で、脳の炎症が引き起こされます。高次機能が損なわれることが多くあります。

髄膜炎
髄膜に炎症が生じ、脳に影響を及ぼす場合があります。

狂犬病やHIV
ウイルス感染が進行すると、脳機能に悪影響を及ぼすことがあります。

3-4脳腫瘍

脳内に発生する腫瘍(良性・悪性を問わず)が、脳組織を圧迫したり浸潤したりすることで、高次脳機能に障害を引き起こします。腫瘍が存在する部位によって、記憶や言語、注意などに影響が及ぶ範囲が異なります。

3-5低酸素症

脳は酸素供給が途絶えると短時間で損傷を受けます。低酸素症は以下のような状況で発生することがあります。

心停止や窒息
心臓や呼吸の停止により、脳への酸素供給が途絶えます。

溺水事故
水中での窒息により脳に損傷が及ぶことがあります。

重篤な呼吸器疾患
慢性的な呼吸障害が脳機能に影響を与える場合があります。

3-6薬物やアルコールの影響

薬物乱用や長期間のアルコール摂取は、脳機能に深刻な影響を与える場合があります。

アルコール性認知障害
長期的なアルコール依存により、記憶障害や判断力の低下が生じることがあります。
薬物中毒
一部の薬物は中枢神経系に深刻な影響を及ぼし、高次脳機能障害を引き起こすことがあります。

3-7加齢や退行性疾患

高齢者の場合、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患が高次脳機能に影響を与えることがあります。これらの疾患は認知症の一環として進行する場合が多く、記憶力や判断力、言語能力の低下を伴うことがあります。

高次脳機能障害は、これらの原因が単独で、または複合的に作用することで発症することがあります。原因を特定することは、適切な治療とリハビリテーションを計画する上で極めて重要です。

4.高次脳機能障害の前兆・初期症状

高次脳機能障害の前兆や初期症状は、その原因や影響を受ける脳の部位によって異なりますが、以下のような症状が代表的です。これらの症状が現れた場合、早期の医療機関受診が重要です。

記憶力の低下

日常的な物事を忘れる頻度が増えます。たとえば、約束を忘れる、物を置いた場所を思い出せないといった症状が見られます。これにより、日常生活の管理が難しくなることがあります。

判断力や問題解決能力の低下

簡単な意思決定や問題解決が困難になります。たとえば、買い物の計算ができなくなる、料理の手順を間違えるなど、日常的な場面で困難が生じます。

注意力や集中力の低下

一つの作業に集中することが難しくなり、複数のことを同時に行おうとすると混乱します。これにより、仕事や家事でミスが増えることがあります。

感情の制御が困難

感情をコントロールする能力が低下し、些細なことで怒りやすくなったり、急に泣き出すなどの情緒不安定が見られることがあります。また、衝動的な行動をとることもあります。

社交性の変化

他人とのコミュニケーションが難しくなり、家族や友人との関係がぎくしゃくする場合があります。これにより、孤立感を感じやすくなることもあります。

その他の症状
視覚や聴覚の異常
見え方や聞こえ方に違和感を覚えることがあります。
空間認識の低下
物の位置関係や距離感を把握するのが難しくなります。

これらの初期症状は一見すると軽微に見えることがありますが、放置すると症状が進行し、日常生活に大きな影響を及ぼす可能性があります。家族や周囲の人が気づいた際には、早急に専門家に相談することが重要です。

5.高次脳機能障害の検査方法

高次脳機能障害の診断と治療計画を立てるためには、正確な検査が必要です。以下では、代表的な検査方法について詳しく説明します。

5-1. 神経心理学的評価

神経心理学的評価は、高次脳機能障害の診断において非常に重要な検査のひとつです。この評価では、標準化されたテストを用いて、認知機能の様々な側面を詳細に測定します。

主な評価項目

記憶力の評価
エピソード記憶(出来事の記憶)や短期記憶、作業記憶などを測定します。例えば、単語のリストを覚えるテストが行われます。
注意力の評価
持続的な注意力や選択的注意力を測定します。簡単な計算や特定の刺激に反応する課題が用いられます。

言語能力の評価
言葉の理解や表現能力を測定します。単語を並べ替えて文章を作る、絵を見て名前を答えるといったテストが行われます。
実行機能の評価
問題解決や計画立案能力を調べます。例えば、具体的な目標に対するステップを考える課題が使われます。

5-2. 脳画像検査

脳の構造や機能の異常を直接確認するための画像診断も重要です。以下の手法が一般的に用いられます。

MRI(磁気共鳴画像)
脳の詳細な構造を把握するために使用されます。例えば、脳梗塞や脳出血の有無、脳萎縮の程度を確認することができます。
CT(コンピュータ断層撮影)
脳の断層画像を作成し、損傷や腫瘍などの異常を迅速に検出します。主に急性期の診断に役立ちます。

fMRI(機能的磁気共鳴画像)
脳の特定の領域が活動している際の血流の変化を測定し、機能の異常を評価します。

PET(陽電子放射断層撮影)
脳内の代謝活動や血流を調べることで、機能的な異常を検出します。

5-3. EEG(脳波検査)

EEG(Electroencephalography)は、脳の電気的活動を測定する検査で、高次脳機能障害の診断や症状の理解に役立ちます。

異常波形の検出
てんかん発作やその他の異常な電気活動を確認します。特に、意識障害を伴う場合や症状が周期的に変動する場合に有用です。
脳の活動状態の評価
覚醒状態や睡眠状態における脳の働きを観察します。注意障害や集中力の低下がある場合にも役立ちます。

5-4. 血液検査

血液検査は、脳自体の問題に加えて、間接的に影響を及ぼす身体的な要因を特定するために行われます。

栄養状態の評価
ビタミンB1やビタミンB12の欠乏が高次脳機能障害の一因となる場合があります。
甲状腺機能検査
甲状腺機能低下症が認知機能の低下を引き起こすことがあります。

感染症の有無
例えば、梅毒やHIV感染が神経系に影響を与える可能性があります。
炎症や免疫反応の検出
自己免疫疾患や炎症性疾患による脳機能の影響を調べます。

検査結果の活用

これらの検査方法に基づいて、高次脳機能障害の有無や原因、障害の程度を判断します。さらに、結果をもとに個別のリハビリテーション計画や治療方針が立てられます。正確な診断と評価が、効果的な治療や支援の基盤となります。

6.高次脳機能障害の治療方法

高次脳機能障害の治療は、症状や原因に応じて多岐にわたります。以下に主な方法を挙げます。

環境の適応

患者が日常生活を送る際に直面する困難を軽減するために、環境を調整します。例えば、スケジュール管理を支援するツールの活用や、静かな環境を整えることが有効です。

認知リハビリテーション

記憶や注意力、問題解決能力の向上を目的とした訓練を行います。専門のセラピストが個々の症状に合わせたプログラムを提供します。具体的には、記憶の補助具を使った訓練、注意力を高めるタスクの実施、問題解決のロールプレイなどが含まれます。

身体的リハビリテーション

特に脳血管障害後に必要とされることが多い身体的リハビリテーションでは、理学療法士や作業療法士が中心となり、運動能力や日常生活動作の改善を目指します。歩行訓練、バランス訓練、筋力強化エクササイズなどが含まれます。

薬物療法

一部の高次脳機能障害には、薬物療法が有効な場合があります。例えば、注意欠陥や抑うつ症状に対する薬物、神経伝達物質の働きを改善する薬が使用されることがあります。ただし、医師の監督のもとで使用する必要があります。

社会復帰支援

職場復帰や社会活動への参加を目指す支援も治療の一環です。職業リハビリテーションや、社会スキルを向上させるプログラムが提供される場合があります。これにより、患者が再び自立した生活を送る準備を整えます。

家族教育とサポート

患者の家族への教育も治療の重要な要素です。高次脳機能障害に対する理解を深めることで、家族が適切な支援を提供できるようになります。また、家族自身の負担を軽減するためのサポート体制も必要です。

執筆者

木村 和夏

木村 和夏

セラピストリーダー/理学療法士

2003年 理学療法士免許を取得。急性期・回復期・維持期病院、および生活期におけるリハビリテーションの臨床現場で理学療法士として勤務。さらに、未来ICT研究所 脳情報通信融合研究センターや国際協力機構での職務を経験。
2025年 プライベートSTROKEリハビリスタジオ re-HAVE セラピストリーダーに就任。
これまで、脳血管・運動器疾患を中心に幅広いリハビリテーションの臨床場面に従事。修士・博士課程や研究センターでは、脳卒中後片麻痺者の歩行動作やバランス能力、上肢の運動機能に関する研究に取り組む。