「歩行速度」でわかる転倒リスクと生活の自立度

「歩くスピードが遅く、家族と一緒に歩くと気を遣う」
「信号が変わる前に渡りきれるか心配」
「仕事に戻りたいけど、通勤で歩くスピードが問題になりそう」
このように感じたことはありませんか?
実は“歩行速度”は、ただの歩く速さではなく、体の健康状態や将来の生活自立度を反映する大切なサインです。
医療の現場では“第6のバイタルサイン”と呼ばれ、寿命、日常生活の自立や転倒リスクとも深く関わっています。
もちろん速く歩けることが全てではありません。大切なのは、無理なく安全にご自身のペースで歩けることです。
そのうえで歩行速度を1つの指標として参考にすることで、日々の何気ない歩き方の中から身体のサインに気付くことができるかもしれません。
歩行速度とは?
歩行速度は “1秒でどのくらい進めるか” を示すもので、健康や生活の自立度を測るシンプルかつ有力な指標です。
数式で表すと・・ 歩行速度 = 歩行時間 ÷ 歩行距離 (メートル/秒)
歩行速度の構成要素は?
歩行速度は「ケーデンス」と「歩幅」の積で決まります。
歩行速度(メートル/秒) = ケーデンス* × 歩幅** ÷ 60
*ケーデンス: 1分間あたりの歩数(歩行のテンポ)のこと。テンポの速い人は、同じ歩幅でも速く進みます。
**歩幅: 1歩の距離 (m)のこと。大きな歩幅の人は、同じ歩数でも速く進みます。
- この式が示すことは何か?
- ◎ 歩行速度は「テンポ × 一歩の大きさ」で決まります
◎ 歩行速度の低下の原因を分解し、それぞれの影響を分析することができます
ケーデンスが少ない(テンポが落ちる)
歩幅が狭い(足が前に出にくい)
歩行速度は、何の指標になる?
歩行速度は「移動能力」だけでなく、身体全体の機能状態を反映する指標とされています。特に以下の要素と関連性があると報告されています。
1. 全身の健康状態のバロメーター
歩行速度は心肺機能、筋力、神経系機能、バランス能力などの全身的な健康状態を反映する指標として広く認識されています。
2. 生活自立度や介護リスクのサイン
歩行速度が低下すると、日常生活動作(ADL)の自立度が低下し、介護が必要となるリスクが増加すると報告されています。
3. 寿命との関連
ある研究では「歩行速度が速い人ほど寿命が長い」ことが報告されています。
類似して、高齢者では、歩行速度が速くなると、「健康寿命」も長くなる傾向があることが示されています。
4. 認知機能との関連
歩行速度は認知機能と相関しており、歩行速度の低下が認知機能の低下や認知症のリスク増加と関連性があると示されています。
5. 筋力との関連
歩行速度は下肢筋力と強い関連があり、筋力が低下すると歩行速度も低下するという報告があります。
歩行速度が示す健康と生活のサイン
以下に、一般高齢者・脳卒中による後遺症の方・日本の臨床現場で使われる基準の3つの観点からご紹介します。
- 1. 一般高齢者の歩行速度と健康リスク
- 健常な高齢者でも加齢とともに歩行速度は低下します。
研究によれば、70歳代では 1.1~1.3 メートル/秒、80歳以上では 0.9~1.0メートル/秒程度が平均的な快適歩行速度とされています。
以下は、健康リスクと関連する代表的な基準値です。
75歳以上の地域在住高齢者における歩行速度の目安
歩行速度 (メートル/秒) | 判定・意義 |
≥ 1.0 | 健康な高齢者では「正常」な速度。予後良好 |
0.7~1.0 | 平均的な歩行速度。注意して観察が必要 |
< 0.7 | 転倒・入院・ADL低下の予測因子 |
(参考:Montero-Odassoら2005)
- 2. 脳卒中の後遺症による片麻痺の方の歩行速度と予後
- 片麻痺のある方の歩行速度は、社会復帰や在宅復帰の可能性を大きく左右します。
歩行速度が速いほど活動量が増え、転倒リスクが低下し、QOL向上にも直結します。
歩行速度 (メートル/秒) | 機能的意義 |
> 0.8 | 独立して屋外歩行可能。街路横断や地域活動が可能 |
0.4~0.8 | 屋外歩行は可能だが休憩や補助が必要。活動は限定的 |
< 0.4 | 主に自宅内歩行。補助具や介助が必要な場合が多い |
(参考:Perryら, 1995; Fulkら, 2010)
- 3. 日本の診療報酬・介護報酬制度における基準
- 日本の当該制度では、歩行速度を メートル/分 で表すことが多く、特に高齢者の機能評価に用いられます。国際的な分類と大きく矛盾せず、以下のように整理されています。
歩行速度 (メートル/分) | 換算 (メートル/秒) | 機能的意義 |
≥ 48 | 約 0.8 以上 | 屋外歩行可能 |
28~47 | 約 0.47–0.78 | 屋外歩行一部可能 |
< 24 | 約 0.4 以下 | 屋内歩行中心、屋外は車椅子使用 |
まとめ
歩行速度は、健康状態や転倒リスクを予測できるシンプルかつ有効な指標です。
日常生活の中で「自分の歩く速さ」に目を向けることが、転倒予防や介護予防の第一歩になります。
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