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転倒を防ぐための鍵は? -姿勢コントロールとバランス-

転倒を防ぐための鍵は? -姿勢コントロールとバランス-

なぜ転倒予防が重要か

  • 世界の人口の高齢化に伴い転倒や転倒に関連した障害が増加しており、65歳以上の高齢者のうち、年間で30%に転倒が発生しています。
  • 転倒によりケガ・骨折・障害を負ったり、元々歩けていたのに介護が必要な状態になっていくケースも多く存在します。また、転倒は入院や施設入所、死亡とも関連しているためより深刻な医療・社会問題です。(World Falls Prevention Society (WFPS; 世界転倒予防学会) ガイドライン)
  • 一方、多くの転倒は予防が可能と言われています。
  • 将来起こりえる転倒を予測するうえで最も継続的かつ主要な要因の一つが、バランス障害および歩行障害です。
  • そのため、リハビリにより姿勢コントロール・バランス能力を改善することが日常生活における転倒予防に重要な取り組みの一つとなります。

「姿勢コントロール」「バランス」の定義

バランスを保つことは、非常に複雑なタスクであり、姿勢コントロールと呼ばれる精緻に調整されたシステムに依存しています。

「姿勢コントロール」とは:
さまざまな姿勢や動作において、空間内における身体の位置を適切に制御する能力のことです。
このシステムは、視覚・前庭感覚(内耳)・固有受容感覚(関節や筋肉の位置感覚)からの感覚情報を中枢神経系で統合し、それに対して筋肉や関節に運動指令を行うことで、空間内での正しい姿勢(定位)を保つことを目的としています。

「バランス」とは:
静止時 (例えば立っている状態) や動作時 (例えば歩行や手を伸ばす動作) において、身体の重心 (COM) を支持基底面 (BOS) の範囲内に維持する能力です。

転倒予防における姿勢コントロール・バランスの役割

立位や動作中の安定を保つ
立位や歩行時などに身体の重心を安定させる働きがあります。これが機能しないとふらつきや転倒のリスクが高まります。
突発的な外乱への反応
滑ったりつまずいたりしてバランスが崩れそうなときに、素早く体勢を立て直し適切な運動反応を引き起こすことで転倒を防ぎます。
動作前の準備
座る、立つ、物を取るなどの動作の前に、予測的に前もって身体の状態を調整することでバランスが崩れるのを防ぎます。
感覚情報の統合
視覚・前庭感覚・固有受容感覚からの身体の位置情報をもとに、的確なバランス調整が行われ、環境の変化にも対応できます。
環境への適応力
不安定な地面や人混み、方向転換などの場面で、姿勢コントロールが適切に働くことで、安全に動くことが出来ます。


では実際に、高齢者や脳卒中後片麻痺者ではどのような姿勢コントロールやバランスの問題が、転倒リスクに関与しているのでしょうか。

高齢者における姿勢コントロールとバランス障害

高齢者では加齢に伴う身体機能の低下が、姿勢の安定性やバランスの維持に大きく影響し、転倒リスクの増加につながります。

1. 加齢による変化と障害
加齢により視覚、前庭機能、固有受容感覚といった感覚機能が鈍くなり、姿勢の維持に必要な感覚情報が不正確になります。
2. 筋力・柔軟性の低下
特に下肢や体幹の筋力が低下すると、支持性と反応性が悪くなりバランスが崩れやすくなります。
3. 反応速度の遅延
姿勢を崩したときの修正反応が遅くなり、転倒につながります。
4. 心理的要因
転倒の経験やそれによる不安・恐怖が転倒の悪循環 (動かない → 筋力低下 → バランス悪化 → 転倒リスク上昇) を引き起こします。

脳卒中片麻痺患者における姿勢制御・バランスの障害

脳卒中により片麻痺を呈した方では、運動麻痺や感覚障害、筋緊張の異常、左右の非対称姿勢などによりバランスを保持することが難しくなります。

1. 感覚障害
脳卒中により視覚、前庭感覚、固有受容感覚の情報統合が障害され、身体の正確な位置のフィードバックを行うことが難しくなり安定性が低下します。
2. 運動障害
身体片側の麻痺や筋力低下が生じ、姿勢を維持・修正するための筋反応が十分に発揮できなくなります。
3. 姿勢反応の遅延・消失
自動的な姿勢調整反応が遅れたり弱くなったりし、バランスが崩れた際の修正が難しくなります。
4. 予測的姿勢制御の障害
物を取るなどの動作に備えた身体の準備が不十分で、不安定性が増加します。
5. 重心保持能力と体重の左右不均衡
麻痺側への荷重が減り非麻痺側での支持に頼るため、重心を支持基底面内に維持する能力が低下し、転倒しやすくなります。
6. 動的バランス障害
歩行や方向転換など動作中のバランス適応が困難で、日常生活中の転倒リスクが高まります。
7. 転倒への恐怖と自信の低下
心理的要因が移動範囲を狭め、バランス能力の低下に拍車をかけます。


このように転倒リスクが高くなる原因は様々であるため「なぜ転倒しやすくなっているのか」という状況を個別に正確に把握することが必要不可欠です。

その評価に基づき個別のリハビリプログラムと目標を立てます。

転倒予防のためのリハビリ

転倒予防のリハビリの主な目的は、身体機能やバランス能力を維持・向上することによって日常における活動を安全に行い、転倒リスクを減らすことです。

1. バランストレーニング

静的バランス (片足立ちや不安定な床面) や 動的バランス (方向転換、階段昇降、障害物回避) を練習することで安定性を向上させます。

2. 筋力強化

特に下肢の筋力を強化させ、転倒リスクを軽減します。

3. 歩行練習

平地や坂道での歩行、障害物を避けながらの歩行練習を行います。

タイミング、ステップ幅、重心移動の再教育歩行時の姿勢を安定させるために、歩行訓練を行い、歩行の安全性と効率性を改善します。

歩行補助具

歩行補助具 (杖、押し車、歩行器) の適切な使用は、転倒の頻度を減らすことが多くの研究で報告されています。「年を取って見られる」「かっこわるい」から使いたくないと思われる方が多いですが、適切な処方によって歩行補助具を使用することは大切です。


4. 外乱に対する反応の練習 (反応性・予測的)

予期せぬ外乱(軽い押しや重心移動)に対して姿勢を立て直す練習により、転びそうになったときの「反応」を鍛えます。

5. 課題特異的・デュアルタスク(二重課題)トレーニング

実生活に即した課題に取り組むことで、実用的なバランス能力を高めます。

認知課題と運動課題を同時に行い、実際の生活環境に近づけます (例:歩きながら会話をする)

6. 環境調整・動作指導

家庭内で転倒の原因となりえる段差やカーペットなどの場所を評価し家屋環境の調整を提案します。また、転倒しにくい動作方法を指導 (回旋動作を避ける、ゆっくり歩くなど)します。

リハビリによって転倒を予防することで、身体的・精神的健康の向上、機能維持、生活の質の向上など、健康寿命を延ばすことにつながります。

re-HAVEでは、各個人の状態やニーズ・目標に合わせたオーダーメイドのリハビリを完全マンツーマンで実施しています。

まずはお困りのことについてお気軽にご相談、お問い合わせ下さい。



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