脳梗塞・脳出血後に“歩くとすぐ疲れる”理由とは? ~片麻痺で歩行効率が低下する仕組みと改善ポイント~|【脳卒中編】疲れやすさと歩行効率シリーズ③
自費リハビリ施設『re-HAVE(リハブ)』では、脳卒中やパーキンソン病を対象にした専門的なプログラムを提供し、個別のニーズに応じたリハビリを行っています。
はじめに:脳卒中後、「歩くとすぐ疲れる」のはなぜ?
脳梗塞・脳出血の後、退院して歩けるようになってきても、
- 「短い距離でもすぐに疲れる」
- 「片麻痺で歩行が長く続かない」
- 「家の中は歩けても外では疲れてしまう」
- 「段々と歩幅が小さくなってスピードが上がらない」
といった悩みを多くの方が抱えています。
実際に検索されるキーワードも、
- 「脳卒中 歩く 疲れる」
- 「片麻痺 歩行疲労」
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- 「脳卒中 歩行 時間が持たない」
- 「退院後 疲れやすい 片麻痺」
といったテーマに集中しています。
多くの方が「体力が落ちただけでは?」と思われがちですが、実際には 片麻痺特有の歩行効率の問題 が深く関係しています。
本コラムでは、国際的評価基準である ICF(International Classification of Functioning) の考え方をもとに、
- 身体内部の“根本原因”(Impairment)
- 歩き方として現れる“症状パターン”(Activity)
- 生活で疲れやすくなる“実際の理由”(Participation)
- 歩行効率を改善するためのリハビリ(効率 → 持久力の順序)
という4つの視点に分けて、脳卒中後の「疲れやすい歩行」の正体をわかりやすく解説します。
※ICFとは、身体・行動・生活の3つの視点で人の状態を整理する枠組みのことです。
※ICFの詳細は別コラムで紹介しています。こちらをご参照ください↗
1. 片麻痺歩行が“疲れやすくなる”根本原因|Impairment:身体機能の問題
脳卒中後の歩行が疲れやすくなる背景には、身体の内部で起こる根本的な障害(Impairment)があります(ICF でいう「心身機能・構造」に相当)。
以下のような機能の変化が歩行効率の低下を引き起こします。
筋力・支持性の問題
- 麻痺側の筋力低下
- 膝折れを防ぐために健側での踏ん張る量が増える
→ 代償が大きく、エネルギー消費が増大
- 荷重・支持時間の非対称性
- 麻痺足に十分荷重できない
→ 歩行周期のバランスが崩れる
→ 歩幅・リズムが乱れ効率低下
運動制御・協調性の障害
- 協調性の低下
- 必要な筋だけを選択的に使えず、不要な筋活動が増える
→ 疲れやすくなる
- タイミングの遅れ
- 蹴り出しや荷重移行のタイミングが合わない
→ 推進力低下
→ 余計なエネルギー消費
歩行中の姿勢制御・バランス能力の問題
- バランス戦略の障害
- 視覚・体性感覚・前庭からの情報統合がうまくいかない
→ 一歩ごとに“転ばないための緊張”が増える
→ 全身疲労につながる
足部・下肢の可動性とクリアランスの問題
- 足先クリアランス低下(Toe clearance不足)
- 足が上がらずつまずきやすい
→ Hip hiking や分回しなど代償が増える
→ これ自体が大きなエネルギー消費に
代償動作によるエネルギーコストの増大
- 代償動作全般
- 根本的な 機能障害を補うための“頑張り動作”
→ 歩行エネルギー消費量は健常者の約1.5~2倍に
→ 少し歩いただけでも疲れやすい
2. 症状別:歩くと疲れやすい片麻痺の歩き方|Activity:歩行パターンの問題
上記で解説した“身体内部の障害(Impairment)”が組み合わさることで、歩行ではさまざまな “疲れやすい歩き方のパターン” として表れます。
これは ICF の Activity(活動)レベルに当たり、「外から見える歩き方の特徴」を分類したものです。
以下では、脳卒中後によく見られる歩行パターンを症状別に整理します。
足が前に出しにくいタイプ
- 分回し歩行
- 足を外側に回して前へ運ぶ
→ 骨盤挙上など代償が多く、疲労しやすい
- すり足・つま先の引っかかり(Toe drag)
- 足先が上がらず床を引きずる
→ 転倒リスク・精神的疲労が増える
支持性の問題から起こるパターン
- 反張膝(Knee hyperextension)
- 膝折れを防ごうとして膝が反る
→ 膝・股関節に負担
→ 疲れやすい、痛みの原因に
- 非麻痺側頼みの歩行(左右の非対称歩行)
- 麻痺側に荷重できず、健側ばかりで歩く
→ 片側の筋疲労が強く長距離歩行が困難に
歩幅の問題からくる歩行効率の低下
- 歩幅が小さくなる
- 推進力が小さくスピードが出ない
→ ちょこちょこ歩きで非効率
- 歩幅の左右差
- 麻痺側が短い/健側が過剰に長い
→ リズムが乱れ、疲れやすく転倒リスクも増す
体幹・骨盤の動きからくる代償歩行
- 体幹が左右に揺れる歩行
- 支持性低下を体幹で補おうとする
→ 全身の筋活動が増加 → 消耗が大きい
- 骨盤側方シフト・左右の揺れ
- 中殿筋弱化による骨盤の大きな傾き
→ 体幹負担が増え、短時間で疲れやすい
- 股関節で“がんばりすぎる”歩行
- 足部が上がらず、股関節だけで脚を持ち上げる
→ 大腿の過剰使用+腰痛の原因に
3. 脳卒中後の歩行が“生活で疲れやすい”理由|Participation:生活・環境レベルの問題
上記の身体機能・歩行パターンで説明した要因に加え、生活の中では以下の要素が重なり、さらに疲れやすさが増します。
- 入院中の廃用 → 全身持久力の低下
- 活動量が減り、心肺機能・筋持久力が低下しがち
→ 動作が回復しても体力が追いつかない
- 退院後の筋持久力不足
- 短距離は歩けても長距離が続かない
→ 「少し遠回りしただけで疲れる」を感じやすい
- 歩行スピード低下 → 時間がかかる → 疲れやすい
- ゆっくり歩くほどエネルギーを消耗しやすい
- 生活場面での負荷(坂道・荷物・段差・人混み)
- 病院より負荷が格段に増える
→ 同じ距離でも消耗が大きい
- 不安・恐怖・緊張
- 「転びそう」という不安で全身に力が入る
→ 筋緊張増大 → 疲れやすさUP
- 脳疲労・日内変動
- 朝は動けるが夕方に疲労が出る、など典型的
歩行効率を高めるためのリハビリ|歩幅・歩行速度の改善
片麻痺の歩行では、「体力アップ」よりも「効率アップ」が決定的に重要 です。
歩幅と歩行速度が適切に上がると、同じ距離でも必要なエネルギー量が減る(=省エネ化)ことが研究で分かっています。
- 歩幅・速度を改善する具体的トレーニングの例
- 🌵 骨盤の前方回旋トレーニング(分回し・すり足の改善)
🌵 麻痺側股関節伸展の獲得(推進力UP → 歩幅拡大)
🌵 ステップ練習で歩幅を段階的に広げる
🌵 メトロノーム歩行でリズム改善(左右差軽減)
🌵 トレッドミルで速度調整しながら効率フォームを習得
先行研究でも、歩幅・歩行速度が上がるほど運動効率が改善し、疲れにくくなることが示されています。
持久力よりも“効率改善”を優先すべき理由
「疲れやすい → もっと歩こう」は、片麻痺では逆効果になることも。
非効率な歩行パターンのまま歩行量を増やすと…
分回し、反張膝、すり足、左右差などが残った状態では、
→ 使わなくてよい筋まで働き、疲れやすさが悪化
正しい順序は…
①歩行効率を整える(フォーム・左右差・速度)
②効率が上がった状態で歩行量を増やす
③自然に持久力が伸びる
まとめ:片麻痺の歩行は“効率改善”で疲れにくくなる
脳卒中後の歩行が疲れやすいのは、
- 身体機能の問題(Impairment)
- 歩行パターンの問題(Activity)
- 生活環境・心理・体力(Participation)
これらが複雑に重なるためです。
しかし、歩幅・歩行速度を改善する練習 ⏩ 効率改善 ⏩ その後に持久力
この順に進めることで、
✔ 長く歩ける
✔ 疲れにくくなる
✔ 不安が減り外出が楽に
✔ 日常生活の範囲が広がる
といった改善が期待できます。
当施設では、
歩行効率・左右差・代償動作・骨盤/体幹の協調性などを丁寧に分析し、
「疲れにくい動き方」へと導くマンツーマンのリハビリを行っています。
片麻痺の歩行は、小さな改善が大きな変化につながりやすい領域です。
まずはご自身の歩行の“どこに改善余地があるのか”を体験セッションで確認してみませんか?
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