パーキンソン病とヤールの分類:初期症状から見る早期リハビリの重要性

京都・四条烏丸/下京区の中心にある当施設『re-HAVE(リハブ)』では、パーキンソン病や脳卒中の後遺症に対する専門的なリハビリを提供しています。
今回は、パーキンソン病の進行度を示す「ヤールの分類」と、早期からリハビリを行うことの重要性についてお話ししたいと思います。
パーキンソン病とは
- パーキンソン病は、脳の中にある「黒質(こくしつ)」という部分で、ドーパミンという神経伝達物質が減少することによって起こる神経変性疾患です。
- ドーパミンは「体をスムーズに動かす信号」を伝える役割を担っており、その量が減ることで動作の調整が難しくなるのが特徴です。
- また、ドーパミンが関わる大脳基底核は、運動の開始や調整だけでなく、「学習」や「感情(情動)」の働きにも関係しています。そのため、運動の症状だけでなく、心身にさまざまな変化が生じます。
パーキンソン病の主な症状
パーキンソン病の症状は、大きく「運動症状」と「非運動症状」に分けられます。
それぞれを簡潔にまとめると次のようになります。
■ 運動症状(体の動きに関わる症状)
主な症状 | 内容 |
振戦(しんせん) | 安静時に手足がふるえる。特に片手から始まることが多い。 |
固縮(こしゅく) | 筋肉のこわばりによって動かしにくくなる。 |
無動(むどう) | 動作の開始や切り替えに時間がかかる。動きが全体的に遅くなる。 |
姿勢反射障害 | バランスを崩しても立て直しにくい。転倒リスクが高まる。 |
歩行障害 | すり足歩行、方向転換が難しい、すくみ足などが見られる。 |
■ 非運動症状(体の動き以外に現れる症状)
主な症状 | 内容 |
自律神経症状 | 便秘、立ちくらみ、発汗異常、排尿障害など。 |
睡眠障害 | 途中で目が覚める、夢を見ながら動く(レム睡眠行動障害)など。 |
嗅覚低下 | においを感じにくくなる。発症のかなり前から見られることも。 |
精神・認知症状 | 抑うつ、不安、意欲低下、記憶力や判断力の変化。 |
疲労感・痛み | 原因不明のだるさや筋肉の痛みが続くこともある。 |
パーキンソン病は、単なる「動きの病気」ではなく、体の動きと心身の両方に影響する病気です。
ヤール(Hoehn & Yahr)の分類とは
パーキンソン病の進行度を評価する国際的な基準が、ヤール分類(Hoehn & Yahr分類)です。
この分類では、症状の広がり方やバランス障害の程度に基づいて5段階に分けられます。
ステージ | 特徴 | 日常生活への影響 |
Ⅰ度 (初期) | 片側にのみ症状が出る(軽度) | ★ 生活にほとんど支障はなく自立。★ 手足の片側だけに軽いふるえやこわばりが出る。 ★ 歩行や姿勢のバランスは保たれる。 |
Ⅱ度 (両側性) | 両側に症状が出るが、バランスは保たれる | ★ 左右の手足にこわばりやふるえが出てくる。 ★ 表情が乏しくなり、声が小さく単調になる。 |
Ⅲ度 (中期) | 姿勢の不安定さが出る | ★ 立ち上がりや方向転換でふらつきが見られ、転倒リスクが高くなる。 ★ まだ日常生活は自立しているが、「すり足」や「前かがみ姿勢」が目立つようになる。 |
Ⅳ度 (進行期) | 動作が著しく遅くなり介助が必要になる | ★ 動作が著しく遅くなり、立ち上がりや移動に介助が必要になる。 ★ 転倒が多くなり骨折リスクが高くなる。 |
Ⅴ度 (高度進行期) | ベッド上・車いす中心の生活 | ★ 全介助が必要となる。 ★ 姿勢保持困難。 ★ 寝たきりや車いす中心の生活となり、褥瘡や関節拘縮のリスクが増加する。 |
- 初期症状に気づくポイント
- パーキンソン病の初期(ヤールⅠ〜Ⅱ期)では、次のような小さな変化が現れることがあります。
◆ 片方の手のふるえ(静止時振戦)
◆ 歩行時、片側の腕がほとんど振れない。
◆ 文字が小さくなる・細かい作業の不器用さ (ボタンが留めにくい、箸が使いにくいなど)
◆ 表情の乏しさ(仮面様顔貌)・声が小さくなる:会話で「いつもより覇気がない」と感じられる。
◆ 歩幅が小さくなる・すくみ足(歩き始めに足が出にくい):狭い場所で足が止まることがある。
◆ 疲れやすさ・動作の遅さ:日常動作に時間がかかるようになる。
これらは見逃されやすいため、家族やケア提供者が気づくことがリハビリ開始のきっかけになります。
早期リハビリの重要性:期待できる効果
リハビリを早期 (ヤールⅠ〜Ⅱ期) から始めることが、将来の日常生活の「自立期間」を長く保つ鍵と言われています。その理由は大きく2つあります。
- 1. 神経可塑性の促進
-
- 体を動かすことは、脳の中の神経回路を刺激して活性化する働きがあります。
- 早い段階で運動を続けると、脳が動きを覚え直したり、他の神経が助け合って動きを支えるようになることが分かっています。
- その結果、症状の進み方をゆるやかにできる可能性があります。
- たとえば、軽い有酸素運動(ウォーキングなど)は、脳の働きを良くする効果があると報告されています。
- 2. 運動学習・代償戦略の早期習得
-
- 症状が軽いうちに、正しい姿勢や歩き方を覚えておくことで、転びにくくなったり、体のバランスを保ちやすくなるなど、後の生活が楽になります。
- 転びそうになったときの反応(ステップを踏む・重心を移すなど)を練習しておくことで、転倒を防ぐ力がつきます。
- 医学的なガイドラインでも、「早期〜中期の段階でのリハビリ介入が効果的」とされています。
エビデンスに基づく「早期リハビリ」の効果
パーキンソン病に対するリハビリは、近年多くの研究で運動機能や生活の質(QOL)の維持に有効であることが報告されています。特に、初期(ヤールⅠ〜Ⅱ期)からの介入が重要と考えられています。
主なリハビリ内容と効果
リハビリの種類 | 内容・方法 | 主な効果 |
有酸素運動 | ウォーキング、トレッドミル、サイクリングなど | ★早期の有酸素運動が運動機能低下を抑制(Peterson et al., 2018) ★6か月間の有酸素運動で運動機能低下を有意に抑制。特に早期ステージで効果が大きい (van der Kolk et al., 2019) |
筋力トレーニング | 下肢・体幹を中心とした抵抗運動 | ★立ち上がりや歩行能力の改善、転倒予防 ★高強度の運動を継続することで姿勢保持能力を維持 (Hirsch & Farley, 2009) |
バランス訓練 | バランス練習など | ★姿勢の安定、転倒リスクの低下(多くの研究で効果を確認) |
複合プログラム | 認知課題やリズム刺激(メトロノーム・音楽)を組み合わせる | ★歩行リズムや協調性の改善、二重課題能力の向上 |
大きな動きを意識した運動(LSVT BIG) | 「大きく・速く動く」動作練習 | ★姿勢・バランス改善、脳の運動出力を促進 (Farley & Koshland, 2005) |
リハビリ (運動療法)はパーキンソン病の進行を遅らせる可能性があるため、
特に初期段階からの継続的なリハビリが効果的であることが示唆されています。
私たちのリハビリ施設「re-HAVE (リハブ)」では、お一人おひとりの「達成したいこと」に合わせた最適なプログラムをご提案しマンツーマンで丁寧に実施しています。
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