疾患について

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1.パーキンソン病におけるリハビリ

パーキンソン病は、進行性の病気ではありますが、適切なリハビリテーションを行うことで、運動機能の維持・改善、日常生活動作の自立度向上、症状の進行抑制、QOL(生活の質)の向上などが期待できます。

パーキンソン病のリハビリテーションは、患者様一人ひとりの症状や進行度、日常生活における課題に合わせて、オーダーメイドでプログラムを作成することが重要です。

1-1.一般的なパーキンソン病のリハビリ

パーキンソン病のリハビリテーションでは、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などの専門家が、多角的に患者様をサポートします。

理学療法(運動療法)

身体機能の維持・改善を目的として、筋力トレーニング、ストレッチ、歩行訓練などを行います。

筋力トレーニング
パーキンソン病では、筋力低下や筋萎縮が起こりやすいため、筋力トレーニングは重要です。 特に、歩行や立ち上がりなどに必要な下肢の筋力強化に重点を置くことが多いです。
ストレッチ
固縮によって筋肉が硬くなりやすいため、ストレッチで柔軟性を高めることは重要です。 関節可動域を広げることで、動作がスムーズになり、転倒予防にも繋がります。
歩行訓練
歩幅が狭くなったり、歩行速度が遅くなったりする症状に対して、正しい歩行パターンを再学習します。 歩行時のバランス能力向上や転倒予防も合わせて行います。

作業療法

日常生活動作(食事、着替え、トイレ、入浴など)の練習や、環境調整、福祉用具の活用などを通して、患者様の自立を支援します。

日常生活動作訓練
パーキンソン病によって困難になった動作を、工夫したり、補助具を使ったりしながら練習します。 患者様が安全かつ自立して日常生活を送れるよう支援します。
環境調整
自宅内の段差をなくしたり、手すりを設置したりすることで、転倒のリスクを減らし、より安全な生活環境を整えます。
福祉用具の活用
杖、歩行器、車椅子などの移動補助具や、食事用具、着替え用具などの自助具を適切に選択し、使用方法を指導します。

言語療法

パーキンソン病では、声が小さくなったり、発音が不明瞭になったりする症状(構音障害)や、食べ物を飲み込みにくくなる症状(嚥下障害)が現れることがあります。

構音訓練
呼吸法や発声練習、滑舌練習などを通して、発声や発音の明瞭さを改善します。
嚥下訓練
安全な食事方法の指導や、飲み込みやすい姿勢の練習、嚥下機能を高めるための訓練を行います。

認知リハビリテーション

パーキンソン病では、注意障害、記憶障害、遂行機能障害などの高次脳機能障害が現れることがあります。 認知リハビリテーションでは、これらの障害に対して、個別に合わせたプログラムを作成し、認知機能の維持・改善を図ります。

記憶力訓練
カード合わせゲームや計算問題などを通して、記憶力や注意力を維持・向上させます。
注意訓練
複数の作業を同時に行うデュアルタスク訓練などを通して、注意機能の改善を図ります。
遂行機能訓練
料理や買い物など、複数の段階を踏む作業を通して、計画性や段取り力を高めます。

パーキンソン病のリハビリテーションは、継続することが重要です。 専門スタッフと連携しながら、患者様自身の状態や目標に合わせたリハビリテーションプログラムを継続していくことで、より良い状態を維持し、充実した日常生活を送ることができるよう支援していきます。

1-2.当施設におけるパーキンソン病のリハビリ

re-HAVEでは、利用者様一人ひとりの症状や身体状況、生活背景に合わせて、絶対的な時間と質を担保した適切なリハビリプログラムを作成し、提供しています。

リハビリ専門家としての評価

現れている症状とそれによる日常生活への影響を評価し、病気の進行状況を把握します。

個々に合わせた運動プログラム

評価に基づき、筋力トレーニング、関節可動域練習やストレッチ、バランス練習、歩行練習、日常生活動作練習など、利用者様に適切な運動プログラムを実施します。

パーキンソン病は進行性の病気のため、早期の段階から十分な運動を継続的に実施することで、状態の維持・改善を図るだけでなく、転倒による状態の悪化を予防することが極めて重要です。

筋力トレーニング
パーキンソン病の初期段階では身体の一側に筋力低下、こわばり、震えなどの症状が現れ、病気の進行とともに両側に症状が出現することが殆どです。そのため、特に症状が出現し動きにくくなっている部位に対して運動を促すことで、運動機能の維持・向上を図ります。
バランス練習
姿勢を保持するための反応の遅れ、筋力低下や動きの緩慢さによりバランスを保つことが難しく、転倒につながりやすくなります。バランス能力を鍛えることで転倒予防の対策を行うことが重要です。
歩行練習
歩きはじめの一方が出しにくい、狭い場所だと足が止まる、歩幅が狭く歩くのが遅くなる、歩き出すと止まるのが難しいといった症状に対して、動作学習のための歩行練習を実施します。また、必要性に応じて歩行補助具の使用について提案することも可能です。
日常生活動作練習とご自宅での動作指導
日常生活においてお困りの動作について安全に自立して行えるよう実践練習を行います。また、日常生活での注意点、自宅でできる運動の指導、自宅生活環境の指導を行い、利用者様の日常生活の質の維持・向上のためにサポートいたします。

ご検討中の方へ

パーキンソン病は完治が難しい病気ではありますが、適切な治療やリハビリによって、症状の進行を抑制し、日常生活の質を維持・向上させることは十分可能です。

パーキンソン病と診断されても諦めないでください。利用者様が笑顔で生き生きとした生活を送れるよう、私たちが心を込めてサポートいたします。

まずはお気軽にお問い合わせください。

2.パーキンソン病とは

パーキンソン病は、脳の黒質という部分にある神経細胞が減少し、ドーパミンという神経伝達物質が不足することで発症します。ドーパミンは、体の動きをスムーズにするために重要な役割を担っているため、不足すると様々な運動症状が現れます。

発症年齢は50〜65歳が多く、加齢とともにそのリスクも高まります。ただし、40歳以下で発症する場合は「若年性パーキンソン病」と呼ばれ、遺伝子異常が関与している場合もあります。

出典1:公益財団法人難病医学研究財団/難病情報センター「パーキンソン病(指定難病6)」

3.パーキンソン病の原因

パーキンソン病の原因は、残念ながら現代医学でも完全には解明されていません。 しかし、長年の研究の結果、下記のような要因が複合的に関係していると考えられています。

3-1.神経細胞の変性・消失

パーキンソン病の患者さんの脳内では、「黒質」と呼ばれる部分にある神経細胞が徐々に変性し、消失していくことが分かっています。 この黒質の神経細胞は、運動機能の調節に欠かせない神経伝達物質「ドーパミン」を作り出す役割を担っています。

ドーパミンが不足すると、運動の開始や滑らかな動きが困難になり、パーキンソン病の運動症状(振戦、固縮、動作緩慢、姿勢反射障害など)が現れると考えられています。

3-2.α-シヌクレインの異常凝集

近年、パーキンソン病の発症には、「α-シヌクレイン」というタンパク質の異常な蓄積が深く関わっていると考えられています。

α-シヌクレインは、本来は神経細胞内で正常な働きをしていますが、何らかの原因で構造が変化し、異常な形で凝集してしまうことがあります。 この異常なα-シヌクレインの凝集体は、「レビー小体」と呼ばれ、パーキンソン病の患者さんの脳内で特徴的に認められます。

レビー小体が神経細胞内に蓄積すると、黒質にある神経細胞が変性し、細胞死を誘導すると考えられていますが、なぜα-シヌクレインが異常凝集を起こすのか、そのメカニズムはまだ解明されていません。

3-3.遺伝要因と環境要因の相互作用

パーキンソン病の発症には、遺伝的な要因と環境的な要因が複雑に関係していると考えられており、下記のような要因が指摘されています。

遺伝要因

家族歴
パーキンソン病の患者さんの約15%に家族歴が見られます。
特定の遺伝子変異
パーキンソン病の発症リスクを高める遺伝子変異がいくつか発見されています。

環境要因

加齢
加齢に伴い、神経細胞が変性しやすくなるため、発症リスクが高まります。
農薬や殺虫剤への曝露
農薬や殺虫剤に含まれる特定の化学物質が、パーキンソン病のリスクを高める可能性が示唆されています。

頭部外傷の経験
強い衝撃を受けた場合などに、パーキンソン病のリスクが上昇する可能性があります。

パーキンソン病の原因究明は、現在も世界中で進められています。 原因が解明されれば、根本的な治療法の開発に繋がる可能性があり、今後の研究の進展に期待が寄せられています。

4.パーキンソン病の前兆・初期症状

パーキンソン病は、初期症状が非常に分かりにくく、老化現象や他の病気と見間違えやすいのが特徴です。 そのため、発見が遅れてしまい、症状が進行してから診断されるケースも少なくありません。

早期発見・早期治療のためにも、パーキンソン病の初期症状には注意が必要です。

パーキンソン病の症状は、大きく「運動症状」と「非運動症状」の2つに分けられます。

4-1.運動症状

運動症状は、パーキンソン病の代表的な症状であり、主にドーパミンが不足することで引き起こされます。

振戦(しんせん)
  • 手足が安静時に震える。
  • 最初は片側だけに出ることが多く、徐々に反対側にも現れる。
  • ストレスや緊張によって震えが強くなる場合がある。
  • 指先で丸める動作をしているように見えるのが特徴的。(ピルローリング現象)
固縮(こしゅく)
  • 筋肉が硬直し、関節の動きが悪くなる。
  • 腕や足の関節が動きにくくなり、動作がぎこちなくなる。
  • 自動車のハンドル操作や歩行時に、動きがスムーズにいかないことがある。
動作緩慢(どうさかんまん)
  • 動作が遅く、小さくなる。
  • 書字の際、文字が小さくなったり、薄くなったりする。(小字症)
  • 歩幅が狭くなり、歩行速度が遅くなる。
  • 表情が乏しくなる。(仮面様顔貌)
姿勢反射障害
  • 姿勢を保つのが難しく、バランスを崩しやすくなる。
  • 少し押されただけで、よろめいたり、転倒したりしやすくなる。
  • 後ろに転倒するケースが多く見られる。

5-2.非運動症状

非運動症状は、運動症状よりも早期に現れることが多く、患者さんにとって大きな負担となることがあります。

精神神経症状
抑うつ
気分が落ち込み、やる気が出ない。
不安
漠然とした不安感に襲われる。
apathy(無気力)
何事にも興味や関心が持てなくなる。
幻覚
実際にはないものが見える、聞こえる。
レム睡眠行動障害
夢の内容に合わせて、手足を動かしたり、叫んだりする。
自律神経症状
便秘
便が出にくくなる。
排尿障害
尿が出にくい、頻尿、尿失禁などの症状。
起立性低血圧
立ち上がったときに、めまい、ふらつきが起こる。
発汗異常
汗をかきやすい、または汗をかきにくい。
その他
嗅覚障害
匂いが分かりにくくなる。
睡眠障害
眠りが浅い、途中で目が覚める。
疲労感
常に疲労感がある。

パーキンソン病は、これらの症状が徐々に進行していくのが特徴です。 初期症状は、日常生活で起こりうる些細な変化であることが多いため、見逃してしまう可能性もあります。

しかし、「最近、何となく体が動きにくい」「以前は簡単にできたことが、今は難しく感じる」など、少しでも気になる症状があれば、早めに医療機関を受診することが大切です。

6.パーキンソン病の検査方法

パーキンソン病は、血液検査や画像検査などで確定診断できるわけではなく、医師による診察と問診、そして神経学的評価が診断の重要な部分を占めます。 他の疾患の可能性を排除するために、いくつかの検査を組み合わせて総合的に判断していきます。

6-1.神経学的評価

神経学的評価は、パーキンソン病の診断において最も重要な要素です。 医師は、患者様との面談を通して詳細な病歴(いつから、どのような症状が現れたのか、家族にパーキンソン病の人はいるか、など)を聴取します。

その後、下記のような項目について神経学的な診察を行います。

運動機能の評価

振戦
安静時、姿勢時、動作時など、様々な状態での震えの有無や程度を観察します。
固縮
関節を動かして、筋肉の硬さや抵抗感を評価します。
動作緩慢
歩行、立ち上がり、指の動きなどを観察し、動作の速度や滑らかさを評価します。
姿勢とバランス
体の傾きやふらつき、転倒の危険性などを評価します。

脳神経機能の評価

視力、眼球運動、顔面表情、発語、嚥下機能などを評価し、脳神経への影響を調べます。

自律神経機能の評価

起立性低血圧、発汗、排尿、便秘などの有無を調べ、自律神経系の機能を評価します。

精神機能の評価

認知機能、気分、行動、睡眠などの状態を評価し、パーキンソン病に伴う精神症状の有無を調べます。

レボドパ試験

パーキンソン病の治療薬であるレボドパ製剤を服用し、症状の改善が見られるかどうかを確認します。 レボドパによって症状が大きく改善される場合は、パーキンソン病の可能性が高いと判断できます。

6-2.イメージング検査

イメージング検査は、パーキンソン病と似た症状を示す他の疾患 (脳梗塞、脳腫瘍など) を除外するために実施されることがあります。

MRI検査

 脳の断層画像を撮影し、構造的な異常がないか確認します。パーキンソン病自体を診断する検査ではありませんが、他の疾患との鑑別に役立ちます。

DAT-scan

ドーパミントランスポーターという、ドーパミンを神経細胞に取り込む役割をするタンパク質を画像化して、脳内のドーパミン神経の働きを調べます。パーキンソン病では、ドーパミン神経が減少しているため、DAT-scanの画像でその減少を捉えることができます。

脳血流 SPECT/PET

放射性物質を用いて、脳の血流や代謝の状態を画像化します。パーキンソン病では、特定の脳領域で血流や代謝の低下が見られることがあります。

6-3.血液検査

血液検査では、パーキンソン病を診断することはできません。 しかし、甲状腺機能低下症やビタミン欠乏症など、パーキンソン病と似た症状を引き起こす他の病気を除外するために実施されることがあります。

パーキンソン病の診断は、多岐にわたる検査結果と医師の総合的な判断によって下されます。 そのため、少しでもパーキンソン病が疑われる場合は、神経内科専門医の診察を受けるようにしましょう。

7.パーキンソン病の治療方法

現在、パーキンソン病の治療にはいくつかのアプローチがあります。主な治療目標は、症状の改善と生活の質の向上です。

7-1.薬物療法

ドパミン補充療法として知られる薬物療法は、パーキンソン病の基本的な治療法です。ドパミン補充剤やドパミン作動薬が使用され、神経伝達物質のバランスを調整します。

7-2.手術療法

進行性のパーキンソン病に対しては、深部脳刺激療法(DBS)が選択肢として考慮されることがあります。病院で行われるこの手術では、脳の特定の領域に電極を埋め込み、脳の電気信号を調整することで症状の軽減を図ります。

執筆者

木村 和夏

木村 和夏

セラピストリーダー/理学療法士

2003年 理学療法士免許を取得。急性期・回復期・維持期病院、および生活期におけるリハビリテーションの臨床現場で理学療法士として勤務。さらに、未来ICT研究所 脳情報通信融合研究センターや国際協力機構での職務を経験。
2025年 プライベートSTROKEリハビリスタジオ re-HAVE セラピストリーダーに就任。
これまで、脳血管・運動器疾患を中心に幅広いリハビリテーションの臨床場面に従事。修士・博士課程や研究センターでは、脳卒中後片麻痺者の歩行動作やバランス能力、上肢の運動機能に関する研究に取り組む。