疾患について

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1.脳卒中におけるリハビリ

脳卒中の後遺症を改善し、日常生活の質を向上させるためには、リハビリテーションが重要です。

1-1. 一般的な脳卒中のリハビリ

脳卒中のリハビリテーションでは、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などの専門家が、患者さんの状態に合わせてリハビリプログラムを作成します。

理学療法(運動療法、物理療法)

運動療法
座ったり立ったりするといった日常生活の動作から、バランス感覚を養う訓練、筋肉を強くするトレーニング、持久力を高める運動まで、様々な取り組みを通して、体の動きやすさを取り戻すための治療法です。関節の動きをスムーズにし、ケガを防ぎながら、心肺機能も向上させることで、身体の機能改善、維持を行います。 
物理療法
痛みや機能障害の改善を目的として、電気、熱、光、水などの物理的なエネルギーを用いて行う治療法です。電気刺激療法やホットパックといった温熱療法、超音波療法といったものがあります。

作業療法

日常生活の動作や作業を通して、心身のリハビリテーションを行います。例えば、食事、着替え、入浴といった基本的な動作から、仕事や趣味など、より複雑な活動まで、様々な作業を通して、患者さんが自立した生活、自分らしく生活できるよう、専門的な知識と技術を用いてサポートします。

言語療法

言葉が出にくい、理解できないなどの言語障害に対して、発声練習やコミュニケーション訓練などを行います。

心理療法

言葉が出にくい、理解できないなどの言語障害に対して、発声練習やコミュニケーション訓練などを行います。

1-2. 当施設における脳卒中のリハビリ

専門のセラピストとエビデンスに基づくリハビリ

当施設では、経験を積んだセラピストが、エビデンスに基づくリハビリを行っています。エビデンスに基づくリハビリとは、単なる経験や直感ではなく、”科学的な根拠(エビデンス)”に基づいて行われるリハビリのことです。

なぜエビデンスが重要か?
効果的なリハビリ
利用者様一人ひとりに合わせた最適なリハビリを選択することで、より効果的にリハビリが実現できます。
安全なリハビリ
根拠のないリハビリによるリスクを減らし、安全にリハビリを進めることができます。
リハビリ効果の客観的な評価
リハビリ効果を客観的に評価することで、より良いリハビリに繋げることができます。
医療費の抑制
効果が実証されたリハビリを選択することで、運動機能の低下を防ぎ、ケガの予防などに繋がり、医療費の無駄遣いを防ぐことができます。

一例として、当施設が導入している「電気刺激装置 WILMO」は、脳卒中ガイドラインの上肢機能障害に対するリハビリテーションのグレードBとして推奨されております。

このように、当施設ではセラピストの専門的な知識・経験・技術に加え、エビデンスに基づくリハビリを実践し、お客様が本来達成したい・できる能力を引き出すことを目指しています。

2.脳卒中とは

脳卒中の語源は、卒然として邪風に中(あた)るということから来ています。
英語では、「Stroke」(=一撃)と呼ばれています。

脳卒中とは、脳の血管に問題が起こり、脳細胞に酸素や栄養が十分に行き渡らなくなることで、脳の機能が損なわれる病気です。 突然発症し、命に関わる場合もある、非常に危険な病気です。
また、一命を取り留めても、麻痺や高次脳機能障害などの後遺症により日常生活に支障をきたす場合もあります。

脳卒中は以下のように分類されます。ここでは割合の大きい脳梗塞、脳出血、くも膜下出血についてご紹介します。

2-1.脳梗塞

脳梗塞とは、脳の血管が 詰まる ことによって起こる病気です。
脳卒中全体の約8割を占めており、脳血管疾患の中でも最も発症頻度が高い病気と言えるでしょう。
脳梗塞は、血管が詰まる原因によって、さらに以下のように分類されます。

心原性脳塞栓症
心臓内でできた血栓(血液の塊)が血流に乗って脳の血管に詰まることで起こります。 心房細動などの不整脈がある方は、発症しやすい傾向にあります。
アテローム血栓性脳梗塞
動脈硬化によって脳の血管が狭くなり、そこに血栓ができて詰まることで起こります。 高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙などの生活習慣病がリスク因子となります。
ラクナ梗塞
脳の奥深くにある細い血管が詰まることで起こります。 高血圧が大きなリスク因子として挙げられます。

2-2.脳出血

脳出血とは、脳の血管が破れることによって起こる病気です。
高血圧が原因で起こることが多く、脳梗塞に比べて死亡率が高くなる傾向にあります。

2-3.くも膜下出血

くも膜下出血とは、脳の表面にある「くも膜」の下にある血管が破れて出血する病気です。
激しい頭痛を伴うことが多く、緊急性の高い病気です。

種類原因特徴
脳梗塞脳の血管が詰まる脳卒中全体の約8割を占める。
脳出血脳の血管が破れる死亡率が高い。
くも膜下出血くも膜下腔への出血激しい頭痛を伴うことが多い。緊急性が高い。

このように、脳卒中はいくつかの種類に分けられ、それぞれ原因や特徴が異なります。
どの種類の脳卒中かによって、適切な治療法も異なってきます。
そのため、早期発見・早期治療が非常に重要です。

3.脳卒中の原因

脳卒中は、ある日突然発症するように思われがちですが、実は、生活習慣病などのリスク因子によって発症リスクが高まることが分かっています。
主な脳卒中の原因を見ていきましょう。

3-1.動脈硬化

脳卒中の最大の原因と言えるのが、動脈硬化です。動脈硬化とは、血管の内側にコレステロールなどが溜まって血管が硬くもろくなり、血液の流れが悪くなる状態を指します。
動脈硬化が進行すると、血管が詰まりやすくなったり、破れやすくなったりするため、脳梗塞や脳出血のリスクが大幅に高まります。

3-2.高血圧

高血圧(血圧≧140/90 mmHg)も、動脈硬化と並んで脳卒中の大きなリスク因子です。血圧が高い状態が続くと、血管に常に負担がかかり、血管が傷つきやすくなります。
傷ついた血管は、修復の過程で厚く硬くなってしまい、動脈硬化を引き起こしやすくなります。
高血圧の最大の生活習慣要因は、食塩の過剰摂取です。脳卒中予防のためにまずは食事の減塩をしましょう。
高血圧が完全に予防できれば、日本人の脳卒中は今よりも約半分に減ると考えられています。

3-3.その他のリスク因子

上記以外にも、脳卒中のリスクを高める要因は様々です。

糖尿病
血糖値が高い状態が続くと、血管が傷つきやすくなります。
喫煙
血管を収縮させ、血圧を上昇させるだけでなく、血液をドロドロにしやすく、動脈硬化を進展させます。
過度の飲酒
血圧を上昇させ、心房細動のリスクを高めます。
ストレス
ストレスは、血管を収縮させ、血圧を上昇させます。
加齢
年齢を重ねるにつれて、動脈硬化が進行しやすくなります。
脂質異常症
血液中のコレステロールや中性脂肪が多い状態は、動脈硬化を促進します。
肥満
高血圧、糖尿病、脂質異常症のリスクを高めます。
心房細動
心房細動があると、心臓内に血栓ができやすくなり、心原性脳塞栓症のリスクが高まります。
遺伝
家族に脳卒中の既往がある場合、発症リスクが高くなる傾向があります。

これらのリスク因子を複数持っている場合は、より一層注意が必要です。

4.脳卒中の前兆・初期症状

脳卒中は、発症前に以下のような前兆が現れることがあります。

4-1.危険度の高い症状

意識障害
意識がもうろうとしたり、呼びかけに応じない場合は、脳の広範囲に障害が及んでいる可能性があります。
言語障害
言葉が出てこない、ろれつが回らない、他人の言葉が理解できないなどの症状は、脳の言語中枢に障害が起きている可能性があります。
突然の激しい頭痛
特に、今まで経験したことのないような激しい頭痛は、くも膜下出血の可能性があります。
視野障害
片方の目が見えにくい、視野が欠けるなどの症状は、脳の視覚中枢に障害が起きている可能性があります。

4-2.その他の前兆

顔の麻痺やしびれ
片側だけ口角が下がったり、笑った時に顔が歪む。
めまい
ぐるぐると目が回るようなめまいや、ふらつき。
腕や足の麻痺やしびれ
片側だけ力が入らなかったり、感覚が鈍くなる。
吐き気や嘔吐
突然の吐き気や嘔吐。

これらの症状は、一時的に現れて数分で治まることもありますが、脳卒中のサインである可能性も考えられます。少しでも異変を感じたら、ためらわずにすぐに医療機関を受診することが大切です。
早期発見・早期治療によって、後遺症のリスクを軽減できる可能性があります。

5.脳卒中の治療方法

脳卒中の治療は、発症した種類(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)、症状の重さ、発症からの時間、そして患者様の状態によって異なります。
大きく分けて、以下の3つの治療法があります。

5-1.薬物療法

薬物療法は、主に脳梗塞の治療において重要な役割を担います。
発症初期には、血栓を溶かして詰まった血管を再開通させるための薬剤(t-PAなど)が投与されます。
ただし、この治療は発症から4.5時間以内の限られた時間内にしか行えません。
一刻も早い治療開始が重要となるため、脳卒中の疑いがある場合は躊躇せずに救急車を呼びましょう。

また、再発予防や症状の進行を抑える目的で、以下のような薬剤が処方されることがあります。

抗血小板薬
血小板という血液を固める成分の働きを抑え、血栓ができるのを防ぎます。
血圧降下剤
血圧を下げることで、血管への負担を軽減し、脳出血のリスクを低下させます。
脂質異常症治療薬
血液中のコレステロールや中性脂肪の値を改善することで、動脈硬化の予防・改善効果が期待できます。
抗凝固薬
血液を固まりにくくすることで、血栓の形成を抑制します。
血糖降下剤
糖尿病がある場合、血糖値をコントロールすることで、血管障害の進行を抑えます。

5-2.手術療法

主に脳出血やくも膜下出血の場合、あるいは薬物療法が効果的でない脳梗塞の場合に、手術療法が選択されることがあります。

開頭血腫除去術
頭蓋骨を開いて脳内に出血した血液(血腫)を取り除く手術です。
脳室ドレナージ術
脳出血やくも膜下出血によって脳内に溜まった髄液を排出する手術です。
血管内治療
カテーテルと呼ばれる細い管を血管に通し、詰まった血管を開通させたり、破れた血管を塞いだりする治療法です。

5-3.リハビリテーション

脳卒中を発症すると、麻痺や言語障害などの後遺症が残ることがあります。
リハビリテーションは、これらの後遺症を軽減し、患者様が少しでも早く社会復帰できるよう、残された機能を最大限に引き出し、生活の質(QOL)の向上を目指すための治療法です。
リハビリテーションには、理学療法、作業療法、言語療法、心理療法などがあり、専門のセラピストが患者様の状態に合わせたプログラムを作成し、実施していきます。

6.脳卒中の後遺症

脳卒中を発症すると、脳の損傷部位や範囲に応じて様々な後遺症が現れることがあります。
後遺症は患者様の人生に大きな影響を与える可能性があり、その種類と程度は人によって大きく異なります。

代表的な後遺症としては、以下のようなものがあります。

6-1.運動機能障害

麻痺 (まひ)
体の片側もしくは特定の部位に力が入らなくなる、または動かしにくくなる。
関節拘縮 関節が硬くなってしまい、動かしにくくなる。

6-2.感覚障害

感覚麻痺
触れた感覚、温度感覚、痛みなどを感じにくくなる。
しびれ
ピリピリとした、またはチクチクとした感覚異常。

6-3.言語障害

失語症
言葉が理解できなくなったり、話せなくなったりする。
構音障害
口や舌の動きが悪くなり、発音が不明瞭になる。

6-4.認知障害

記憶障害
新しいことを覚えにくくなったり、昔の出来事を思い出せなくなったりする。
遂行機能障害
計画を立てたり、物事を順序立てて行ったりすることが困難になる。
注意障害
気が散りやすくなる、一つのことに集中することが難しくなる。

6-5.高次脳機能障害

半側空間無視
体の片側に注意が向きにくくなる。
感情障害
感情のコントロールが難しくなり、急に怒りっぽくなったり、泣いたりする。
失行
目的の動作をうまく行えなくなる。

6-6.その他

嚥下障害
食べ物を飲み込みにくくなる。
排泄障害
尿や便の排泄がうまくできなくなる。

これらの後遺症の改善には、リハビリテーションが非常に重要です。
発症早期からのリハビリテーション開始が、その後の回復を大きく左右します。

7.最後に

脳卒中は、適切な治療とリハビリを行うことで、回復を効果的に進めることが可能です。

リハビリによって、身体を動かすことで、血液循環が促進され、脳や身体全体の機能改善に取り組みます。また、麻痺や筋力低下、バランス感覚の回復を目指すことで、日常生活の質を向上させるお手伝いをさせていただきます個別に最適化されたプログラムで、お客様が自信を持って、望む生活を再び実現できるようサポートいたします。

些細なことでもお気軽にご相談ください。いつでもお待ちしております。

執筆者

木村 和夏

木村 和夏

セラピストリーダー/理学療法士

2003年 理学療法士免許を取得。急性期・回復期・維持期病院、および生活期におけるリハビリテーションの臨床現場で理学療法士として勤務。さらに、未来ICT研究所 脳情報通信融合研究センターや国際協力機構での職務を経験。
2025年 プライベートSTROKEリハビリスタジオ re-HAVE セラピストリーダーに就任。
これまで、脳血管・運動器疾患を中心に幅広いリハビリテーションの臨床場面に従事。修士・博士課程や研究センターでは、脳卒中後片麻痺者の歩行動作やバランス能力、上肢の運動機能に関する研究に取り組む。