【痛みシリーズ②】パーキンソン病に伴う痛みの原因とリハビリでの対処法|筋緊張・姿勢との関係を解説
京都・四条烏丸にある当施設「re-HAVE(リハブ)」では、脳卒中(脳梗塞・脳出血)やパーキンソン病の方を対象に、専門的なリハビリを提供しています。
- パーキンソン病の方の多くが感じている「痛み」。
- ──「腰や背中が常に重い・張る」
──「肩や首のこりが強い」
──「手足がこわばって動かしづらい」
実は、パーキンソン病の約6〜8割の方が何らかの痛みを経験するといわれています。
この痛みは、筋肉や関節のこわばりだけでなく、脳内の神経変化(ドーパミン低下)にも関係しています。
今回は【痛みシリーズ】第2回として、「パーキンソン病に伴う痛み」をテーマに、原因とリハビリでの対処法をお伝えします。
痛みの背景:ドーパミン低下による「感覚のズレ」
パーキンソン病では、ドーパミンという神経伝達物質の減少により、脳内での「感覚情報の処理」にズレが生じることがあります。
その結果、実際には強い刺激がなくても痛みを感じやすくなったり、痛みが長引きやすくなったりします。
この現象は、痛みの感じ方そのものを調整する「中枢神経系」の働きが乱れているために起こります。
- 専門コラム:ドーパミン低下による「感覚のズレ」とは?
-
パーキンソン病では、ドーパミンの減少により、運動だけでなく「痛みや感覚の処理」にも乱れが生じます。この“感覚のズレ”には、次のような要因が関係しています。
① 痛みを抑える力の低下(下行性抑制系の障害)
ドーパミンが減ると、脳の痛み抑制ネットワークが働きにくくなり、軽い刺激でも強く痛みを感じやすくなります。
② 感覚と動きの不一致(感覚運動統合の異常)
脳が「感じる情報」と「動いている感覚」のズレが大きくなると、実際には問題がなくても“痛み”や“違和感”を感じやすくなります。
③ 痛みが続くほど過敏になる(中枢性感作)
慢性的な痛み刺激によって、脳の痛みネットワーク自体が敏感になります。
④ 痛みをより“つらい”と感じる(情動系の変化)
ドーパミンは「快・やる気」を生み出す物質。その低下により、痛みに対するストレスや不安が強まりやすくなります。
パーキンソン病における痛みの種類と原因
パーキンソン病では、いくつかのタイプの痛みがみられます。
| 種類 | 主な原因 | 特徴・症状 |
| 筋骨格性疼痛 | 筋固縮(こわばり)、姿勢異常、関節拘縮 | 首・肩・背中・腰のこりや痛み。長時間の同一姿勢で悪化しやすい |
| 中枢性神経障害性疼痛 | ドーパミン系の機能低下による痛覚処理の異常 | 体の一部がピリピリ・焼けるように痛む。明確な原因がなくても強い痛みを感じる |
| ジストニアによる痛み | 筋肉の持続的な収縮やねじれ | 手足・首などがねじれる動作とともに痛みが出る。朝や薬が切れる時間帯に多い |
| 末梢神経痛や二次的疼痛 | 姿勢異常による神経圧迫、転倒・拘縮 | 坐骨神経痛・肩関節痛など二次的な障害として生じる |
補足:上記のうち「中枢性神経障害性疼痛」は、脳のドーパミン低下によって起こる感覚処理のズレと深く関係しています。つまり、「体に問題があるから痛い」のではなく、「脳が痛みを強く感じてしまう」状態です。
痛みを悪化させる要因
パーキンソン病では、以下のような要因が痛みを悪化させることがあります。
- 姿勢の崩れ(前屈・側屈など)による筋緊張の偏り
- 同じ姿勢で過ごす時間が長い
- 不安や抑うつなどの心理的要因
- 薬(L-dopaなど)の効きムラによるオン・オフ変動
これらは互いに影響し合い、「痛みの悪循環」を引き起こします。したがって、姿勢や筋緊張の調整、生活リズムの見直し、心理的ケアなど、多角的なリハビリアプローチが重要です。
痛みに対するリハビリアプローチ
痛みの原因がどのタイプにあるのかを見極めることが、適切なリハビリの第一歩です。
ここでは、パーキンソン病にみられる代表的な痛みごとに、その対処法を紹介します。
- 1. 筋骨格性疼痛:姿勢・筋緊張へのアプローチ
- ■ 目的:筋緊張を整え、動きやすい姿勢を取り戻す。
■ 主なリハビリ方法:
◎ 姿勢調整・ポジショニング:前傾姿勢や側弯など、姿勢の偏りを修正。座位・立位バランスを改善。
◎ ストレッチ・関節可動域練習:固まった筋や関節をゆるめ、可動性を改善。
◎ リズム運動・動作練習:筋固縮を軽減し、動作の滑らかさを取り戻す。
◎ 温熱療法や軽運動:血流を促進し、筋緊張をやわらげる。
■ ポイント:「動かす=痛い」ではなく、「動かすほど痛みが減る」状態を目指します。
リハビリの初期は小さな動きからでも、“心地よい動き”を積み重ねることが大切です。
- 2. 中枢性神経障害性疼痛へのアプローチ:脳の“痛み感覚”を再教育
- ■ 目的:痛みの“感じ方”を変える、脳の再学習を促す。
■ 主な方法:
◎ リラクゼーション:呼吸や注意の集中を用い、痛みに対する過敏反応を和らげる。
◎ 鏡療法・イメージトレーニング:痛みを感じる部位を「正常に動かす」イメージを脳に再構築。
◎ 電気刺激療法:感覚入力を補い、痛み抑制系を活性化。
■ ポイント:中枢性神経障害性疼痛は「脳の誤作動」であるため、脳に正しい感覚と動きを再教育するアプローチが有効です。
- 3. ジストニアによる痛みへのアプローチ:筋肉のねじれをコントロール
- ■ 目的:不随意な筋収縮を抑え、姿勢・動作のコントロールを取り戻す。
■ 主な方法:
◎ リラクゼーションと呼吸法:筋過緊張を抑える。
◎ 関節運動・ゆっくりとしたリズム動作:急な動きではなく、滑らかなリズムで筋緊張を整える。
◎ 感覚入力の調整:触覚・振動刺激で筋出力をコントロール。
◎ 薬のオン・オフに合わせた運動プログラム:薬効ピーク時に合わせて運動し、痛みを最小化。
■ ポイント:ジストニアは「タイミングと強さの制御」がカギ。リハビリ×服薬リズムの調整が大切です。
- 4. 二次的・末梢性疼痛へのアプローチ:姿勢・動作パターンの再構築
- ■ 目的:姿勢や動作の改善を通して、神経への圧迫や牽引を減らし、痛みを和らげる。
■ 主な方法:
◎ 姿勢・動作分析と修正:偏った荷重や動作を見直し、身体の使い方を再教育。
◎ 体幹・下肢の安定化運動:骨盤や背部の安定性を高め、坐骨神経への圧迫を軽減。
◎ ストレッチ・軽運動:神経周囲の組織を柔らかく保ち、痛みを予防。
■ ポイント:「使い方のくせ」が痛みを作ることもあります。動作の質を変えることが最良の予防です。
パーキンソン病の痛みは、筋・神経・脳の働きが複雑に関わる多因子性です。
理学療法では、身体の状態と脳の反応の両面から整え、“動ける・楽になる”を両立するリハビリを目指します。
痛みを放置すると…
痛みを我慢して動かさないでいると、筋肉がこわばり、姿勢が崩れ、関節が固くなっていきます。
その結果、痛みがさらに強まる「負のスパイラル(悪循環)」に陥ります。
「動くと痛い」ではなく、「動かさないことで痛みが強まる」ことも少なくありません。
リハビリでは、この悪循環を運動により断ち切ることを目指します。
まとめ:痛みを「リハビリで整える」
パーキンソン病に伴う痛みは、単なる「こり」や「疲れ」ではなく、神経と筋肉、そして姿勢のバランスの乱れによって生じます。
リハビリによって筋緊張と姿勢を整え、痛みを軽減することが重要です。
痛みを減らすことが、「動きやすさ」と「生活の質(QOL)」を取り戻す第一歩です。
痛みでお困りの方は、ぜひ一度re-HAVE(リハブ)にご相談ください。
お問い合わせ・体験リハビリ
【無料相談・体験リハビリ】 https://re-have.jp/trial/
【お問い合わせフォーム】 https://re-have.jp/contact/
【お電話でのお問い合わせ】 075-746-6488
******************************************************
【関連記事】
<痛みシリーズ>
【コラム】【痛みシリーズ①】脳卒中後の痛み(片麻痺の疼痛)とは?原因・種類・リハビリでの改善方法
脳卒中後に起こる肩や手の痛みの原因と、改善に向けたリハビリの考え方を解説。
【コラム】【痛みシリーズ③】整形外科疾患における痛みの正体とリハビリの役割|慢性痛と上手につき合うために
関節痛や腰痛など整形外科疾患に多い「慢性痛」のメカニズムを解説し、痛みと上手につき合うためのリハビリのポイントを紹介。
<パーキンソン病の関連記事>
リハビリ・症状・診断方法・治療まで、パーキンソン病の基本を包括的に解説。
■ 【コラム】パーキンソン病に特徴的な歩行パターンとは?
すくみ足や小刻み歩行など、パーキンソン病に特有の歩行障害をわかりやすく解説。
■【コラム】ガイドラインに基づくパーキンソン病のリハビリとは?
国際的なガイドラインに沿った、科学的根拠のあるリハビリ手法を紹介。
■【コラム】パーキンソン病と転倒予防|9/22は世界転倒予防デー
高齢者の転倒リスクとその予防策を、パーキンソン病の観点から具体的に解説。
■【コラム】パーキンソン病と大脳基底核 −脳と体のつながりを理解する−
パーキンソン病の症状と深く関わる「大脳基底核」の役割を神経科学的に紐解く
■【コラム】パーキンソン病とヤールの分類:初期症状から見る早期リハビリの重要性
重症度に応じた症状の変化と、早期段階からのリハビリ介入のポイントを紹介。
******************************************************